大阪都構想への疑問についての回答政策

大阪維新、ONE大阪、大阪都構想への疑問に答える

※この原稿は、日経BPに掲載された上山信一・慶大教授の記事を、上山教授自身が加筆・修正したもので、同教授の了解を得て掲載するものです。

[問1] 本当にONE大阪(大阪都)にしたら大阪経済は活性化するのか?

行政制度や公共投資のあり方を変えるだけで経済は活性化するものではない。だが現状のままだと大阪の衰退は深刻化するだけだ。
ONE大阪に切り替えると、少なくとも3つの効果が期待できる。
ひとつは、今まで府と市がばらばらに行ってきた交通インフラなどの投資を、協調して集中的に加速できる(なにわ筋線、淀川左岸線高速など)。
2つめは、大阪市が所有する膨大な資産が有効活用できる。あわせて大胆な行政改革もできる。たとえば府と市の水道事業を統合すれば、老朽化して効率の悪い柴島(くにじま)浄水場が廃止できる(新大阪から至近距離)。ほかにもゴミ焼却施設など統廃合できる施設が目白押しである。
3つめには、大阪の司令官を一人にすると中央との政治折衝力が増す。東京や名古屋の首長と連携すれば、政権与党に対して、都市の成長戦略を進めるうえで必須の規制改革や権限委譲、あるいは特区指定を迫る政治力が得られる。

[問2] ONE大阪をめぐる論争は府と市のトップ同士のけんかにしか見えない。単なる権力闘争ではないか?

府と市の行政部局同士はこれまでにも協調できる点では十分に協調してきた(イベント、観光集客など)。全国の他地域と比べても劣るものではない。しかし70年代から続く大阪の経済衰退と社会不安を直視した場合はどうか。あるいは上海やシンガポール、ソウルのダイナミックな都市戦略と比べるとあまりにも展開が遅い。最近は財政危機でますます二重投資の弊害が目立つ。今までの府市連携程度では全く不十分である。
府のあり方にも改善の余地はある。だが大阪市のほうは政治体質に致命的な限界がある。大阪市政は、24区の中選挙区制で選ばれた議員(わずか3千票強で当選する人もいる)が率いる典型的な田舎の利権政治である。古臭い選挙制度が、狭い地域の目先の利益を追求する政治家を生んでしまうのである。
その結果、大阪市は潤沢な資金と資産を保有するにもかかわらずアジアと競争する大都市として行うべき成長戦略に向けた投資を行ってこなかった。例えば、新大阪―大阪駅北ヤード間や関西空港へのアクセス鉄道の建設をしなかった。代わりに、人口の少ない周辺東部に地下鉄今里筋線などを建設してきた。
ONE大阪とは、狭い市域に限定した利権政治に陥っている今の大阪市役所の都市経営を是正し、都市戦略を再構築するために必須の基礎工事かつ外科手術である。
なぜ府市の対話と協調ではなく、いきなり統合、都構想なのか。大阪の成長戦略への投資は歴代首長や行政パーソン、議員がこれまで30年議論し続けてきた。財界も主張し続けてきた。だが総論賛成、各論反対でほとんど進まなかった。これまでろくにできてこなかった大阪全体の成長戦略投資を、たかだか最近はやりの「熟議」で打開せよというのは、無責任な傍観者のコメントに過ぎず一顧だに値しない。
府も市も企業で言えば破綻会社である。統合(合併)して事業効率を上げるのは当然である。投資も一本化する。だが企業と違って自治体は倒産しない。自発的な合併や統合は制度上も簡単ではなく、期待しにくい。また全国一律的な市町村合併のように国が指導してやれるものでもない。そもそも国には都市経営の洞察がない。敵対的であれ、何であれ、一方が片方に統合を迫る政治的なM&A、つまり選挙を経て民意を結集して行う組織統合が唯一の戦略である。

[問3] 大阪市を解体してより大きな都に吸収するのは地域主権、地方分権の流れに反するのではないか?

ONE大阪では「集権化」と「分権化」の両方を同時にやる。その結果として大阪は国から権限や財源を奪取し、自立していく。したがって、これはまさに現在の憲法の下で行う合法的かつ究極の地域主権運動である。
ONE大阪による「集権化」は、産業・交通などの成長戦略分野で必須である。これは一人の司令官(大阪都知事)の下に権限を吸い上げ、より早く、強力に進める。これによって今まで大阪市と大阪府、さらに各局、各部がばらばらにやっていた投資や政策を、都市戦略の観点から統合的に行えるようになる。
その過程で府庁も大阪市役所もあり方はゼロベースで見直す。特に今の大阪市役所の中之島本庁の機能は解体する。そして新たに設ける広域行政の拠点、都庁機能に集約する。これは中央における霞が関(省庁)の解体と、官邸機能の強化(橋本改革、小泉改革)に相当する作業である。
一方、きめ細かな住民サービスが必要な分野、特に福祉や教育は、市区町村に任せて「分権化」する。例えばすでに府は小中学校の教員人事権を北摂の市に移譲すると決めた。なお地域内で何を重視するかは、各地の実態に合わせて住民が自ら考えるべきだ。
ところが問題は大阪市内である。24の区に266万人もの人々が住んでいるが、地域住民による自治が存在しない。区役所が24個あるが、実態は中之島本庁舎の単なる出張窓口でしかない。区長は優秀な公務員だが地域の実態を知らない人物がほとんどで3年ほどの任期で去っていく。
こうした区長が率いる区の行政は、基本は本庁の指示待ちであり、かつ24区横並びで切磋琢磨や競争意識に乏しい。官選知事が地方を治めた戦前の大日本帝国と同じ構造である。東京の特別区のように公選の区長、区議会を置き、住民自治を始めるべきだ。

[問4] ONE大阪では中途半端。むしろ道州制を目指すべきではないか?

大阪再生のためには、最終的には“関西州”の広域で交通インフラなどの政策を展開すべきだ。
例えば港湾投資。今後は阪神港だけでなく、敦賀なども活用すべきだ。今や国際コンテナは日本海を通っている。釜山からのフィーダーや大陸諸都市への高速フェリーなどの潜在需要を取り込むためには、大阪の資金で日本海側の交通インフラ投資をするといった仕組みがあってよい。琵琶湖から大阪湾に至る環境戦略も、府県を越えて展開すべきだ。関西州の仕事は山ほどある。
だが関西の牽引役は大阪である。そこが分断国家状態では話にならない。また大阪の経済と政治が健全でなければ、関西州は機能しにくい。
EUの例が参考になる。EUは独仏の融和を経て通貨統合や拡大EUの構築に至ったが、その前提が東西ドイツの統一だった。関西州も、府市の統一と合併が政治的には先決である。

[問5] 首長が議会で多数派を占める地域政党の長を兼ねるのは、地方自治の2元代表制の趣旨に反し、民主的ではない。 独裁になるのではないか?

「2元代表制の下では、首長は議会の多数派と対立関係にあるべき。そのほうがチェックがきいて健全で民主的」という見方は一見正しそうに見える。だがそれは、いわゆる“ねじれ現象”を招き、行政に混乱を招く場合も多い。
だから現実には、2元代表制でも首長が議会の多数派の支持を得ている事例が多い。自民党や民主党の議員が首長になる例は多い。ひどい場合には与野党相乗りで首長を担ぎ、議会に多数派与党勢力を作って議会との馴れ合いによる談合政治に陥っている。
こうした実態があるにもかかわらず、これまで各地の自治行政は「2元代表制に反する」という批判を受けることはなかった。なぜ地域政党と首長が連携した場合には問題視されるのだろう。唯一の違いは、既存政党の党首が首長を兼ねることはなかったという点だけだ。
さらにいえば、何十年も前の米国製のわが国地方自治の2元代表制が、実態にあった制度かどうか、日本の民主主義の成熟に貢献する制度かどうかも怪しい。
2元代表制は小さな政府、権力の濫用(らんよう)を防ぐ目的で導入されてきた制度であり、歴史的にはきわめて古い制度である。戦後の福祉国家、大きな政府には向かない。
また、そもそも自治体に中央と同じような政党政治が必要か疑わしい。海外の地域政治では、政党がそもそも存在しない例、あっても地域政党だけという例もある。
そもそも、地方自治制度は地域の実情に合わせて決めればよく、一国多制度がよい。わが国では、識者や中央官僚が全国一律の自治制度を前提に、2元代表制と1元代表制の是非をしたり顔で論じているが、そのこと自体がナンセンスであり、かつ地方を軽視する発想のあらわれである。
今の大阪の場合は地域再生が経営課題であり、おそらく権力は集中させるべきで、1元代表制がよい。そしてONE大阪が必要だ。だが、よその地域では必ずしもそうではない。全国一律の発想、国と相似形の発想で自治体の政治のあり方を論じること自体が、地域主権の時代にそぐわないのである。